■フィアット『トレピウーノ Trepiùno』コンセプトの誕生
2004年の第74回ジュネーヴ・モーターショーで初めてデザインが公開された『フィアット・トレピウーノ FIAT Trepiùno』は、2007年に発表された新型フィアット500(チンクエチェント)の基となったコンセプトカーです。
デザインはフィアット・チェントロ・スティーレ(Fiat Stile Centro)によるもので、100%フィアット社内で出掛けています。ロベルト・ジョリート氏(Roberto Giolito)のスケッチを採用して練られたデザインは、同コンセプトカーのオリジナルである2代目FIAT500こと、Nuova500(ヌオーバ・チンクエチェント)に似たレトロな愛らしさを体現したプロトタイプです。
『トレピウーノ Trepiùno』とは、イタリア語の「トレ・ピゥ・ウーノ tre più uno」を縮めた言葉(というか、ネイティブな発音では母音は前後でくっつくので、ほぼ口語に近い繋がった言い方)で、イタリア語で「3足す1(3+1)」の意味です。
ほとんどツーシーターの狭い車内において、助手席のレッグスペースの部品をコンパクト化し、薄いシートを採用。後部座席を設けられるレベルに助手席を前進させて3席目を確保(3 tre)。運転席の後ろは補助席のような小さめな席となる(+1 piú uno)
ダッシュボードの助手席側下部を前方に押し込むことで、3.3mという短い全長の中に3人+1人というレイアウトを可能にしたトレピウーノ。これをコンセプトに開発された新型500は、外観だけでなくインテリアも基本的なデザインは踏襲されてると言えるでしょう。(※trepiùnoはコンセプトカーなのでモダンタッチな造形となっている)
イタリア語で「3+1」という車名が示す通り、2人乗りをベースとしたのは、当時イタリアでヒットしていたメルセデスの「Smart スマート」の存在があったと言われます(後述)。2代目チンク Nuova500をモダナイズしただけではなく、コンパクトな車内に、乗車する人数に合わせて空間を自在に変えられるフレキシブルさ、ユーティリティーの追求こそがコンセプトでした。
■トレピウーノは500のお母さん!"Fiat Trepiùno, la mamma della 500"
トレピウーノ発表当初はメカニズムの詳細は発表されていなかったそうですが、最終的にトレピウーノは写真撮影用のモックアップモデルと実走可能なプロトタイプの2台が作られました。実走モデルには54馬力の1100ccエンジンを搭載していたという話。(あるいは当時パンダやプントに搭載されていた1300ccマルチジェット・ディーゼルエンジンを積んでいたという話も)
横置きのフロントエンジン、前輪駆動のFF車であることも当然ニューチンクと同じです。デザインはロベルト・ジョリート氏(新型ムルティプラのデザイナーでもあります)。先述の通り、Trepiùnoは、その再構成可能なインテリア「3 + 1」構成に着目されています。
●トレピウーノの貴重な動画資料↓
(2004 ジュネーブモーターショー)
レピウーノが初めてお披露目されたのは、2004年3月4日から14日まで開かれた「第74回ジュネーブモーターショー」。開発プロジェクトはその1年前から開始されていたそうなので、2003年。自動車雑誌Tipoの取材によると、フィアット・ランチア製品開発ディレクターのウンベルト・ロドリゲス氏がインタビューにこう答えています。
「戦後この会社が築いてきた ”フィアットらしさ” とは何か? その追求から始めたのです」
辿り着いた結論は、「小さなボディに広い室内」という、長年フィアット社が得意としてきた小型車の文化であり、そのモチーフとして帰結したのがFIATのアイデンティティとも言えるFIAT500(Nuova 500)です。しかし、ただのリメイク的な、ノスタルジーに依存しただけの現代版を製造するのではなく、ただ”可愛い”だけのクルマではない、現代的な”実用性”との両立を目指しています。
これは、旧チンクエチェント(Nuova 500)が、戦後復興の最中にあった当時のイタリアの人々のライフスタイルに寄り添う形で、限られた厳しい条件下において、試行錯誤の末に捻り出されたデザインやスペックであったという構図に似ています。更にさかのぼれば、チンクのご先祖様である初代500(Topolino トポリーノ)の誕生から受け継がれるFIATの伝統的な系譜です。
トレピウーノは「未来への復帰(ritorno al futuro)」がジュネーブモーターショーでテーマとして掲げられました。このプロトタイプは、現代的な方法で、イタリアで最初の大衆的なモータリゼーションを起こした車となったNuova500の再解釈です。
1957年に登場した大衆車Nuova500。かのダンテ・ジャコーザ(Dante Giacosa)によって手掛けられたイタリア稀代の名車は、18年間にわたり400万台以上を販売した、イタリア初の国民車です。もしニューチンクの原型となったトレピウーノが、そのデザインを模しただけのリバイバル版であったなら、新型500がこんなにヒットすることは無かったと思います。
ただの、懐かしの「フィアット500」、チンクエチェントの「復刻バージョン」ではないデザインの完成度。フィアットの過去の栄光を引っ張り出してきたような無理やり感がないのは、やはりFIATが培ってきた理念を、冷静に、現代に投影しているから。
■『トレピウーノ Trepiùno』誕生の背景
当時のイタリアの車事情の背景として、スマート(Smart fo two)のヒットがあり、小型車シェアNo.1に返り咲くため、競合相手のスマートに負けないコンセプト作りを模索。マーケットを調査し、Smartの座席が2つしかない点のデメリットに気付き、顧客ニーズがそれ以上の座席数にあると結論付けて開発をスタートさせたという。
ロベルト・ジョリートは、「2人乗りのスマートを所有する多くのオーナーは、座席の柔軟性を求めているだろう。そのニーズは、フィアットTrepiunoのコンセプトでサードシートのオプションに反映されている」と考えたそうだ。
後部はリアウィンドウとルーフスポイラーを一体化。「ハッチバック」のコンセプトを再提案。デザイナーは新車の主なテーマであるシンプルさを失うことなく、細心の注意と注意を払ったそうです。
全長とホイールベースが短く、ドアノブやバンパー等のデザインが異なる他は、2007年に発表されることとなる新型チンクエチェントに近いスタイリング。100%フィアット社内の手によってデザインされた。
トレピウーノの全長は3300mm。2代目であるヌォーバ500は2700mm。つまり、旧チンクより300mm長くなっていますがコンパクト。最終的に新型フィアットが3,545mmとなっているので、トレピウーノよりも25センチほど全長が長くなり、ひとまわり大きくなりました。
日本の軽自動車の規格が3400mm×1480mm×2000mmなので、トレピウーノは軽自動車より小さいわけですね。そう捉えると、ほぼツーシーターで、Smart(スマート)に寄せたコンパクトカーを目指し、なおかつ「3+1(tre più uno )」の空間性を模索した経緯も理解できますよね。
「3+1」のシートを開発するにあたりTrepiùno(トレピウノ)では社外のエンジニアと協力してシートパッケージを模索、シートの厚さを最小限に抑え、薄いのに硬くて丈夫なポリウレタンフレームで柔軟なポリウレタンをサンドするアイデアを実現。
後部座席の背もたれは、内向きおよび上向きに折り畳むことが可能で、ラゲッジスペースを拡張することができる。
repiùnoのダッシュボードには2つの収納ドロワーがあり、夜間にキャビンを照らすために発光ダイオードを使用するインテリア照明と、ダッシュボードTFT / LCD画面と通信するテールライトなどがある。
- インフォテイメント制御システム
- Trepiùnoのインストルメントパネルは、ジョンソン・コントロールズが開発した革新的なインテグレーテッドコントロールとインフォテインメントシステムを搭載。
世界的な成功を収めた新しいフィアット500は、イタリアの「made in Italy」の価値を再び世界に示すことに成功したモデルと言っても過言ではないでしょう。新型フィアット500は、イタリア国外での売上高が好調で、2007年以来130万台近くが販売され、その65%が海外で登録されているそうです(※2015年時点)
フィアット500はポーランドで生産され、アメリカやヨーロッパ諸国をはじめ、日本や南米、南アフリカなど、世界100カ国以上で販売されています。欧州カー・オブ・ザ・イヤーなど数々の賞を獲得してきた実績もあります。そして何より、みんなに愛されてますよね♥
画像出典:FCA