日本ではFIAT 500を親しみを込めて「チンク」と呼びますよね。では本場はどうでしょう?
イタリアでは「チンクイーノ(Cinquino)」という愛称でも親しまれています。この呼び名の響きには、500という車名・型番以上のちょっと特別な気持ちが込められています。
なぜ「チンクイーノ」と呼ぶの?

イタリアの休日の公園で集う古いチンクイーノ達
[Vicenza 筆者撮影]
「チンクイーノ」は、数字の「500」を意味する Cinquecento(チンクエチェント) に、指小辞の「-ino(イーノ)」がついた形です。
イタリア語では『小さい』『可愛らしい』といったニュアンスを言葉にするときに、「-ino」や「-ina」* を誰かの名前などに付けて表現します。
日本語で直訳するなら「小さいチンクちゃん」「大好きな500」といった感じ。
単なる愛称やニックネームの枠を超えて、
家族の一員や大切な相棒に語りかけるような、温かくて親しみのある呼び方なのです。
プチ・イタリア語講座 ■■■
*女性名詞の場合、単語の最後が「a」になります
だから、もしあなたのチンクちゃんが女の子なら「Cinquina チンクイーナ」! 💕
500という名前の意味は?

北イタリアの町の小さな旧車の集いにて[筆者撮影]
以前に「チンクエチェントって何?」という記事でも詳しく書いたことがありますが(そもそも有名な話だし今では日本でもすっかり認知されてますが)、先代のクラシックカーの方の「500(チンクエチェント)」のエンジン排気量が500ccだったことに由来します。
もちろん現代版フィアット500はオマージュです。
(500ccではありません 笑)
それでも2気筒ターボのTwinAirの方なら875cc(0.9ℓ)と、日本の軽自動車くらいとまではいかないけど小さめは小さめ。
イタリア人にとって500は特別

2台の先代フィアット車たち|PANDA & 500L[筆者撮影 Roma]
1950年代― 日本と同じく敗戦国だったイタリアは、戦後復興の最中にありました。
Nuova 500(ヌオーヴァ500)が誕生した1957年のイタリアも、まだ多くの市民は貧しかった頃ですが、大半のイタリア庶民にとってチンクエチェントは「初めて手に入れた ”マイカー”」となりました。当時のFIAT社は、大衆の足となる「国民車」を安価で普及させるために500を限界まで小さく安く作らせたからです。
戦後のイタリアの人々にとっては単なる「アシ車」や生活の道具としてだけでなく、楽しい思い出や喜びも、そして時には苦労した辛い記憶も、ずっと共にして頑張ってきた人生のパートナーでした。だからこそ、家族のような親愛を込めて、この小さな相棒に語りかけるのです。
「Cinquino チンクイーノ」と。
街で見かけるだけで誰もが自然と笑顔になる。そんな特別な愛着や郷愁が、モデルが新しくなっても500には受け継がれています。

現代のイタリアの街並みに自然と溶けこむ
クラシック・チンクエチェント[筆者撮影]
ヌォーヴァ・チンクエチェント(Nuova 500)の設計を任されたダンテ・ジャコーザは、FIATの無茶ぶりに随分と悩まされたそうですが、イタリアの多くの家庭に移動の自由と『小さな幸せ』をもたらした立役者と言えますね。
日本はチンク/イタリアはCinquino

FIAT ABARTH all Japan meetingにて[筆者撮影]
日本では「チンク」という、短いけど軽快な響きがしっくりくる呼び方が定着しています。これはこれで親しみやすく、とても素敵な愛称だと思います。ただ、この略し方は国内だけなのでイタリア人に話しても伝わらないので、旅行のときやSNSでコメント交流する際にはあまり使わない方がよいでしょう。
でも本国での「チンクイーノ」呼びのニュアンスを知ると、少しだけ愛車への想いに深みが増す気がしませんか?
- 「チンク」 = 500好きの可愛い呼び方
- 「チンクイーノ」 = 心の中で話しかけるような自分だけのちょっぴり特別感
もちろん、どちらが正解とかいう話ではありません。みんなが思い思いに親しめる感じがフィアット500というクルマの最大の個性ですから!
あなたらしい自分なりのFIATライフで満喫なさってくださいね。
次世代に受け継がれるコンセプト

今では電気自動車やハイブリッドが主流になりつつあるフィアット車ですが、EVの500eや最新モデルの600(セイチェント)が登場しても、あの徹底して一貫しているデザイン性からも見て取れる様にコンセプトは自動車メーカーとしてブレていない。そんな印象です。お見事!👏
クラシックさへの愛しさをモダンに解釈し、ノスタルジーも時代に合わせてアイコンとして進化させていく。まさにイタリア・ブランドの得意分野ですからね。
まさに家族と伝統を大切にするイタリア人が愛してやまない「小さな500(チンクイーノ)」の系譜そのもの。時代の壁こそあっても、その根底にある「愛されるために生まれた」という500という車のアイデンティティに変わりはありません。
遠くない未来で、ちっちゃな電気ネズミちゃん達がスクーターなみの安さになって、狭い街中をちょこまか走り回るような日が来ることを願って!