フィアット500と聞くと、ルパン三世でお馴染みの丸っこい可愛いフォルムの小型車を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかしそのルーツを遡ると、そこには「小さな怪物」と呼ばれた熱いレーシングスピリットが存在します。それが、アバルト595です。アバルトというブランドは、今も「ホットな小型車」の代名詞として多くのファンを魅了してやみません。
この記事では、現代のFIAT500オーナーや購入を検討している方やイタ車好きの方に向け、元祖アバルト595の歴史と魅力、そして現代版595とのつながりを分かりやすく解説したいと思います。
現代ではアバルト&C.社(Abarth&C. S.p.A)として再組織されて別会社となり、新型フィアット500のチューニングモデルの「アバルト500」そして「アバルト595」を世に送り出しています。
アバルトの創業とフィアットとの深い関係

アバルトの創業者、カルロ・アバルト(Carlo Abarth)は1908年、オーストリア・ウィーンで生まれました。
後にイタリアに移住し、1949年にトリノでアバルト社を設立。
当初はフィアット車をベースにしたチューニングカーやレーシングパーツの開発・販売を手がけ、モータースポーツの世界で注目を集めました。1960年代に入ると、フィアットとの関係がさらに深まり、FIAT 500をベースにしたチューニングモデルを次々と生み出します。
その代表作が、あまりにも有名なアバルト595です。


1962年に登場した「アバルト1000TC」はカルロの偉大なる代表作の一つ。フィアット600(セイチェント)をベース車両そして1961年にデビューしツーリングカーレースを席巻した「850TC」の発展型である。
元祖アバルト595の誕生と技術的特徴
ABARTH 595 フィアット500D直系のアバルトとして誕生
1963年、FIAT 500Dをベースに誕生したアバルト595は、当時の常識を覆す小さな怪物でした。
- エンジン:排気量593.7ccながら、専用ヘッドや高圧縮ピストン、大型キャブレターなどを投入し、最高出力27hp(ノーマル比約50%アップ)を達成
- 最高速度:約120km/h(当時の500としては驚異的)
- ボディ:基本的に500Dと共通ながら、専用エンブレムやチューニングパーツで差別化
さらに1964年には排気量を695ccまで拡大したアバルト695も登場。
レースフィールドでは小型軽量ボディに高出力エンジンを載せた「ピッコロ・モンスター(小さな怪物)」として、数々の勝利を収めました。当時のアバルトは、エンジンだけでなくサスペンションやブレーキ、排気系まで徹底的にチューニング。特に、一体鋳造の専用シリンダーヘッドを採用した点は評価されました。これによりボアアップが容易になり、ノーマルエンジンとは根本的に異なるパフォーマンスを実現。大容量オイルパン(4L)や専用エキゾーストなど、細部までレース志向で仕上げられていました。
「ただ速いだけではない、操る楽しさ」を追求した姿勢は、現代のアバルトにも受け継がれています。

1958 Fiat 500 Abarth at Monza
この「FIAT ABARTH 500」という文字の入った500Dは、1958年2月に7日間モンツァでデモ走行が行われた車体


平均速度108km/hを達成し国内外から高い評価を受けたという。合計6つの記録を破ったランの後、関心を持ったフィアット社との連携を深めることになり、ほどなく595/695の誕生へと繋がっていく。
アバルト595は、外見上はFIAT 500Dとほとんど変わらないシルエットに、フロントグリルに蠍(さそり)のエンブレムを添えた程度のデザインでした。
内装も基本的に500Dの丸型メーターをそのまま流用しており、非常にシンプルな造りです。ただし、回転計や油温計、油圧計を追加できるメーターキットがオプションで用意され、本格的に走りを楽しみたいオーナーはこれを装着するのが一般的でした。

しかし、見た目とは裏腹に、メカニカル面は全く別物でした。
アバルトはエンジンに鋳造インマニとエキゾーストマニホールドを採用し、ハイコンプレッションピストン、軽量化とバランス取りを施したコンロッド&クランク、大型キャブレター、大容量オイルパンなど、多岐にわたる本格的なチューニングを投入。
結果として、ノーマルの500Dとは根本的に異なるハイスペックなマシンに仕上げられていました。
しかもアバルトは完成車だけでなく、パーツ単体(キット)としても販売していたため、オーナー自らがノーマルのFIAT 500をベースに、少しずつアバルト595仕様へとチューンアップしていくことも可能でした。
1963年|姉妹モデル "695" 登場
595がデビューした同年の5月には、排気量を695ccまで拡大した695シリーズもリリースされました(カタログ写真で見るものは、後期の500Fをベースにしたものが多くなっています)。1966年になると、ベース車両を後期型のFIAT 500Fに切り替えられます。
500D由来の前開きドアから、安全性向上のために前ヒンジの後開きドアへ変更された以外は、外観上は一見しただけでは判別しにくいモデルとなりましたが、ドアノブの位置を見ると違いがわかります。

1971年の生産終了まで、**ピッコロ・モンスター(小さな怪物)**の異名で人々を魅了し続けた595シリーズ。
同年、アバルト社はフィアットに買収され、ラリーを中心とした競技車両の開発を担う部門となりました。これにより、アバルト独自の活動は一旦終焉を迎えることになります。
アバルト595の最大の魅力は、やはりエンジンの徹底したチューニングにありました。ノーマルのFIAT 500は各気筒に独立したヘッドを持つエンジンでしたが、アバルトはこれを2ボーンヘッドに変更。ヘッド自体を肉厚に設計したことで、ボアアップが容易になり、排気量を大幅に増やすことが可能になりました。

一体鋳造の専用シリンダー、専用ピストン、新設計のカムシャフト、大径のキャブレター(C28PB)、大容量オイルパンなど、細部にわたる改造が施され、ハイスペックなチューニングエンジンに仕上げられていました。ノーマル状態で18hpだったエンジン出力は、27hpまで引き上げられ、最高速度は120km/hに到達。
当時の販売価格は595,000リラだったそうです(イタリアらしい語呂合わせが効いたネーミングですね)。同じマイクロカーでありながら120km/hを出せるのは、当時として驚異的な性能でした。ノーマル500Dの最高速が95km/h程度(現存する旧車の実走では80km/h巡航が現実的)であることを考えると、その差は歴然です。
1964年|Esse Esse エッセエッセ(595SS / 695SS)

アバルトはさらに高性能を追求。1964年2月には、よりパフォーマンスを高めた**595 SS(esse esse)**が登場しました。圧縮比を10.5:1まで上げ、キャブレターをより大径のソレックス34PBICに換装。
吸排気系も見直され、最高出力は32hp、最高速度130km/hをマークしています。主なスペックは下記の通り。
- 排気量:593.7cc
- ボア×ストローク:73.5×70mm
- 最高出力:27hp / 5000rpm

595 SS(イタリア語でSSはエッセエッセと読む)はエンジンの圧縮比を10.5:1まで高め、キャブレターをより大きなソレックス34PBICに換装。インテーク・マニフォールドを始めとする吸排気系が見直され、チューニングにより最高出力は32hpに引き上げられ、最高速度は130km/hをマーク。
1970年にはレース仕様の595 Corsaもリリースされ、オーバーフェンダーを装着して最高出力34hpまで高められました。
1970年|FIAT ABARTH 595 Corsa コルサ|

1970年にはレース仕様の『FIAT ABARTH 595コルサ』が登場。オーバーフェンダーを備え最高出力は34hpまで向上。
アバルトのチューニングの特徴として、大容量オイルパン(ノーマルの2Lに対して4L)にはABARTHの刻印が入っていました。
空冷エンジンである旧チンクエチェントにとって、オイルは冷却の要です。走行性能を高めるためにはオイル容量を増やす対策が欠かせなかったのです。現在でも入手可能な定番パーツですが、当時物のオリジナルは希少で、レプリカが多く出回っています。
現代のアバルト595とのつながり

現在のアバルト595は、旧アバルト595のオマージュとして命名されました。しかし単なる名前だけの継承ではありません。
「595」という数字は、歴史的モデルではその排気量に由来していますが、新595はその精神——「小さくても熱く、操る楽しさを追求する」哲学を、現代の技術で再現しようとした結果です。旧アバルト595を知るマニアから見ると、現代版は快適性や安全性が格段に向上していますが、「走って楽しい」という本質はしっかり受け継がれています。

現代版も、コンパクトなボディにパワフルなエンジンを搭載し、「小さくても熱い」キャラクターを継承しています。旧アバルト595を知っている人から見ると、現代版は快適性や安全性が格段に向上していますが本質的な魅力は変わっていません。
特に、コンパクトなボディとレスポンシブなハンドリングは、往年のファンも納得する味わいがあります。そのキャラクターを日本でも味わえるのは嬉しいポイントです。
旧アバルト595が教えてくれること

FIAT500やアバルト595に興味を持つ人とって、旧アバルト595の歴史を知ることは大きな意味があります。
- チューニングの楽しさと奥深さ
- 小さな車体で最大限のパフォーマンスを引き出す哲学と思想
- イタリア車らしい情熱と遊び心
これらを理解すると、単なる「かわいい車」ではなく、「走る楽しさを追求した車」「走る哲学」が詰まった一台として見えてきます。
画像出典:https://www.abarth.jp/

